魚はなぜ減った? 見えない真犯人を追う2022年04月10日

山室真澄 <つり人社・2021.10.28>

・2019年11月に Science誌に掲載された著者らの論文 (Neonicotinoids disrupt aquatic food webs and decrease fishery yields) のデータを中心にして、宍道湖における魚類の減少に「ネオニコチノイド系殺虫剤」が関与することを示した。つり人を対象として雑誌に連載された文章なので基礎となる知識を説明してあり、また科学者の本らしく様々な観点からのポイントを押さえ、極めて論理的に書かれていてわかりやすい。著者・山室は80年代初めの学部学生時代から汽水湖である宍道湖の生態学研究を行い、泥の中にいる多毛類(釣り餌にするゴカイを含む動物群)に関する卒論のデータも使われている。
 宍道湖では1993年からウナギとワカサギの漁獲量が激減した。著者らは同時期から日本全国の水田で使われ始めたネオニコチノイド系殺虫剤が原因ではないかとの仮説を立て、他の要因による様々な可能性の検討も含め、充分に説得力のある生物学的、化学的なデータにより証明した。
 ネオニコチノイド系殺虫剤は、人体や脊椎動物への安全性が高いとされる一方で、昆虫には強い毒性を発揮するのが特徴で、現在も世界で広く使用されている農薬であるが、自然環境に対する影響の懸念から欧米では既に規制が始まっている、あるいは承認されていない国も多い。世界における化学農薬の使用量(単位面積あたり)は東アジア(中国、韓国、日本)で非常に高く、ヨーロッパの2倍、アメリカの4-5倍になる。日本では水田でのネオニコチノイド系殺虫剤の使用量が多いことから、直接に河川や湖沼に流入する。
 著者らは、ネオニコチノイド系殺虫剤の否定や、それを使用しているコメ農家の糾弾をすることなく、ネオニコチノイド系殺虫剤の問題点を提示し、化学農薬に頼らない農業の推進を提案している。是非、我が国で広く議論されて欲しい。

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