EXTRA LIFE なぜ100年間で寿命が54年も延びたのか2022年05月12日

 ヒトの寿命は、多少の変動はあっても年々延びることが当然のように漠然と感じていたが、医療の歴史は長いもののそのような現象はここ数百年のことであるそうだ。本書では、その寿命の延びの原因が、一般に思われるような医学の偉大な発明や発見によるのではないことを示し、多くの人の地道な積み重ねによって達成されたとしている。それほど期待しないで読み始めたのだが、本のタイトルの答だけでなく、その背景に関しても知らなかったことが多々あって予想以上に面白かった。
・人口統計は紀元前のはるか昔から、おそらく課税目的で行われたことが、粘土板の記録から考古学的に示されているが、平均寿命(出生時平均余命)の考え方ができたのは遥かに遅く、17世紀のロンドン。その計算に必要な死亡統計も同じときに始めて行われた。人口統計は単なる事実の記録だが、平均寿命は確率の概念が含まれる将来予測。
・ヒトの平均寿命は、農耕以前の10000年以上前(歯や骨から死亡年齢が推定できる)から18世紀頃まで30歳〜35歳であり、感染症の大流行などによる変動以外、ほぼ変わらなかったらしい。平均寿命が短い原因は子どもの死亡率が高い(30%以上)ためで、成人の多くはそれよりはるかに長く生きた。
・17世紀のイギリス貴族は、医療へのアクセスが良かったにもかかわらず、ではなく、アクセスが良かったために、イギリス人一般よりも有意に平均寿命が短かった。それは当時の医療がトータルとして身体に悪いことをしていたからで、確かに現在の知識から見れば、病人に毒(ヒ素、水銀など)を投与したり、大量に出血させたり(米国初代大統領ワシントンは全血液の6割以上を抜き取られた、という)したら、早く死んでも不思議はない。
・医学的介入に効果があったか、を調べる研究は何と20世紀になってからで、その結果、結核による死亡者の減少は、有効な治療法が見つかる以前から始まっていたことがわかった。現在、大半の歴史学者は、第二次世界大戦が終わるまで、医学的介入の平均寿命に対する効果は限定的と考えているそうだ。それより以前に医者たちが蓄積していた真に有効な医療行為のプラス効果は、上述の怪しげな「英雄的医療」によって帳消しになっていたという。
 本書にリストアップされた寿命延長の原因は以下の通り。引用元を挙げておらず、信憑性はよくわからないが、およそのイメージが得られれば良いのだろう。
・数十億人の命を救ったイノベーション
 化学肥料(農業生産の飛躍的増加による栄養状態の改善)、トイレ/下水道、ワクチン
・数億人の命を救ったイノベーション
 抗生物質、二又針、輸血、(飲料水の)塩素消毒、(牛乳の)低温殺菌
・数百万人の命を救ったイノベーション
 エイズ・カクテル療法、麻酔、シートベルト など
 本書では、これらのうち8つの物語の詳細が描かれているが、有名な天然痘ワクチンのジェンナーや、ペニシリンのフレミングが、彼らだけの力でイノベーションを起こしたわけではなく、過去からの蓄積があったり、埋もれそうになった発見を救い出した人たちがいたからこそ、という。
 たまたま図書館の新刊置き場で手に取って読んだが、このところこういう「発見」が多く、新刊本のチェックの網をもう少し広げた方がよいかも。

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