侵食される民主主義 内部からの崩壊と専制国家の攻撃 ― 2022年06月28日
ラリー・ダイアモンド (市原麻衣子・監訳)<勁草書房・2022.2.20>
その世界では「ミスター・デモクラシー」と呼ばれているという著者が、予想外のトランプ大統領誕生に衝撃を受けて書いた本。原著の出版は2019年で、トランプの再選を阻止する狙いがあったと思われる。原題は “ILL WINDS, Saving Democracy from Russian Rage, Chinese Ambition, and American Complacency”、民主主義の中心を自認するアメリカの問題とともに、ロシアと中国を侵食の張本人と名指ししている。ただし監訳者が解説で指摘しているように、著者は反プーチン、反習近平であって、反ロシアや反中国ではない。アメリカでも反トランプであって、反共和党ではない。リーダーと国民は別ということだ。
著者は政治学の研究者として世界70カ国以上を見て回り、民主主義の定着、促進、発展および後退の研究を進めてきただけでなく、イラク連合国暫定当局の統治担当上級顧問など民主化の現場でも働いてきた。トランプ台頭の以前からアジア、アフリカ、ラテンアメリカ、東ヨーロッパの国々における民主主義システムの不調を憂慮し、警告を発し続けてきたという。
本書では、人々の自由とその実現に必須と著者が考える民主主義(ここでは代表制民主主義)はアプリオリに正しいとし、それを侵食する専制政治(autocracy)、権威主義、クレプトクラシー(kleptocracy、国の資源・財源を権力者が私物化する政治体制、泥棒政治とも言われる)やポピュリズムの政治家達を名指しで批判し、糾弾する。具体的に多くの事例を挙げ、民主主義を支持する者には非常に説得力があるが、ここまで明確に敵視されれば、彼が批判する政治家の支持者達には反感を与えるだけだろう。したがって彼の意図は、民主主義支持者に危機感を与えることであり、民主主義の擁護に向けて積極的な行動を促すことを目的としている思われる。世界の民主主義を守るためには、アメリカの立て直しが必須と著者は考え、選挙区割りを捻じ曲げるゲリマンダーや、一般投票の敗者が大統領になることがある選挙人制度など、日本から見ると不思議なシステムが生き続けるアメリカの制度を改変し、民主主義を復活させる7つの具体的な改善策を示している。
同じ時期に、世界の様々な国で権威主義が台頭し、泥棒政治とまで言わなくても仲間うちだけを大切にする(安倍元首相はそう見えたし、トランプも同様。敢えて敵と味方を作る)政治が支持されるのは何故だろう、と私は常々感じていたが、それは一般には民主主義の行き詰まりと捉えられているようだ。いかにもアメリカ人らしいスタンスの著者であるが、ハイジ・J・ラーソンの「ワクチンの噂」を読んだあとだからか、「仲間内政治」から脱却し、多様な世界観を持つ人々をまとめていくのにこの手法でいいのか、との疑問、不安が出てしまう。私が生きている間に、著者が期待するような、世界の民主主義の崩壊から復活への流れが生まれるか、甚だ心許ないが、成り行きは心して見ていきたい、というのが率直な感想である。
その世界では「ミスター・デモクラシー」と呼ばれているという著者が、予想外のトランプ大統領誕生に衝撃を受けて書いた本。原著の出版は2019年で、トランプの再選を阻止する狙いがあったと思われる。原題は “ILL WINDS, Saving Democracy from Russian Rage, Chinese Ambition, and American Complacency”、民主主義の中心を自認するアメリカの問題とともに、ロシアと中国を侵食の張本人と名指ししている。ただし監訳者が解説で指摘しているように、著者は反プーチン、反習近平であって、反ロシアや反中国ではない。アメリカでも反トランプであって、反共和党ではない。リーダーと国民は別ということだ。
著者は政治学の研究者として世界70カ国以上を見て回り、民主主義の定着、促進、発展および後退の研究を進めてきただけでなく、イラク連合国暫定当局の統治担当上級顧問など民主化の現場でも働いてきた。トランプ台頭の以前からアジア、アフリカ、ラテンアメリカ、東ヨーロッパの国々における民主主義システムの不調を憂慮し、警告を発し続けてきたという。
本書では、人々の自由とその実現に必須と著者が考える民主主義(ここでは代表制民主主義)はアプリオリに正しいとし、それを侵食する専制政治(autocracy)、権威主義、クレプトクラシー(kleptocracy、国の資源・財源を権力者が私物化する政治体制、泥棒政治とも言われる)やポピュリズムの政治家達を名指しで批判し、糾弾する。具体的に多くの事例を挙げ、民主主義を支持する者には非常に説得力があるが、ここまで明確に敵視されれば、彼が批判する政治家の支持者達には反感を与えるだけだろう。したがって彼の意図は、民主主義支持者に危機感を与えることであり、民主主義の擁護に向けて積極的な行動を促すことを目的としている思われる。世界の民主主義を守るためには、アメリカの立て直しが必須と著者は考え、選挙区割りを捻じ曲げるゲリマンダーや、一般投票の敗者が大統領になることがある選挙人制度など、日本から見ると不思議なシステムが生き続けるアメリカの制度を改変し、民主主義を復活させる7つの具体的な改善策を示している。
同じ時期に、世界の様々な国で権威主義が台頭し、泥棒政治とまで言わなくても仲間うちだけを大切にする(安倍元首相はそう見えたし、トランプも同様。敢えて敵と味方を作る)政治が支持されるのは何故だろう、と私は常々感じていたが、それは一般には民主主義の行き詰まりと捉えられているようだ。いかにもアメリカ人らしいスタンスの著者であるが、ハイジ・J・ラーソンの「ワクチンの噂」を読んだあとだからか、「仲間内政治」から脱却し、多様な世界観を持つ人々をまとめていくのにこの手法でいいのか、との疑問、不安が出てしまう。私が生きている間に、著者が期待するような、世界の民主主義の崩壊から復活への流れが生まれるか、甚だ心許ないが、成り行きは心して見ていきたい、というのが率直な感想である。
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