ロボットと人間 人とは何か2022年08月13日

石黒 浩 <岩波新書・2021.11.19>
 ロボット工学者で、人間酷似型ロボット(アンドロイド)研究の第一人者という著者が、自身の研究を解説した本。以前にTVで著者及び著者を模したアンドロイドを見たことがあり、それほど興味を持った記憶はなかったが、新書の帯のキャッチコピーでは「ロボットを研究することは、人間を深く知ることである」とあり、プロローグにも「本書では、ロボット研究の科学的側面と技術的側面、すなわち、人間に関する深い疑問に答える側面と世の中で役立つ側面の両方から、これまでに取り組んできた研究や、それをもとに巡らせた考えについて述べる」とあったので、どれほど「深い」のか期待して読んで見た。
 著者はヒトの社会に多くのロボットが共存する「ロボット社会」の実現を目指し、さらに人間を深く理解するために人間に酷似したロボットの開発を進めている、という。酷似させるために、ヒトの筋肉の動きに近づける空気アクチュエータ(空気圧で動くシリンダー)や、ヒトの皮膚を模した柔らかいシリコンを用いていて、それらに苦労が多いらしい。応用面に関する記載で興味を持ったのは対話ロボットで、高齢者や自閉症児はヒトよりもかえってロボットの方が話しやすい傾向があるという。但し、これらの例でヒトがロボットに親近感を持ち、ロボットに心を感じるためにはアンドロイドである必要はなく、遥かにシンプルな造形のロボットで充分のようだ。また平田オリザと一緒にロボットを用いた演劇を作っていて、著者はロボットの演技を観て感動したそうだ。侵襲型ブレインマシンインターフェイス(手術をして脳にセンサーを埋め込む)を用いて、考えるだけでアンドロイドを動かす「第3の腕」のような使い方も試みられているが、障害者の義手の話はなく、おそらく担当分野が違うのだろう。
 私が期待した人間理解に関して言えば、確かにロボットは、「ヒトは他者をどう見るか」に関して興味深い知見を与えることには充分に納得した。しかし前述のように、ヒトがロボットに心を感じるのに外観はあまり関係なく、この結果はすなわち心を感じるのにアンドロイドである必要はない、ということになるはずだが、そのような言及は全くない。さらに言い過ぎと思える箇所が多々あり、たとえば<人間らしいロボットは、人間を理解するテストベット(研究材料)になる>はいいが、<ロボットを開発することで、人間を理解するという(?)ことができる>は「・・、人間の理解を助ける手段となる」くらいだろう。
 全体を読み通して、著者の研究の最終目的はロボット社会を作ることにあり、アンドロイドにこだわるのは著者の興味・趣味、「人間に関する深い理解」は、アンドロイド研究の意義を読者に説得するために後付けで作った理屈で、研究費集めのための文章を読んでいる感じがした。研究費の申請書にやや大袈裟に書くのは当然で、全く構わないが、一般向けにはどうか。また少なくとも以前に読んだ「AIは人間を憎まない」に登場した合理主義者たちのような深刻さは微塵もなく、言葉は悪いがきわめて無邪気にロボット作りに励んでいるように感じられた。私の理解が足りないだけなのだろうか?

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