ほくはお金を使わずに生きることにした2022年08月26日

マーク・ボイル (吉田奈緒子訳)<紀伊国屋書店・2011.11.26>

 少し古い本だが、著者の最新刊を知って興味を持ち、彼の考え方を知るには先ずはこれからと思って読んでみた。
 著者は1979年アイルランド生まれ、イギリス在住の屈強そうな男性。大学で経営学と経済学を学び、卒業間際に読んだマハトマ・ガンディーについての本に触発されて社会の役に立ちたいとの考えに目覚め、オーガニック食品を扱う仕事ならば倫理的と考えて同業界に就職した。しかし6年間働いてみて自分の考え方とのギャップを感じ、世界の持続可能性(サスティナビリティ)の問題の原因は消費者と消費される物の断絶にあると考えて、2007年に断絶の原因である(すなわち両者を媒介している)お金を使わないフリーエコノミー(無銭経済)運動を創始した、という。本書はその活動の一環として2008年11月末の国際無買デー(Buy Nothing Day, 本当に必要なもの以外は買わずに過ごし、消費が人間社会や自然環境に与える環境について考えようという日で、日本や欧州では11月最終土曜日。全く知らなかった!)から1年間、著者がお金を一切使わない生活を実践してみたという記録。著者は最初に「カネなし生活のルール」を作った。詳細は省くが極めて常識的な内容で、若者にありがちないわゆる「頭でっかち」ではないと思った。また無銭生活の準備にはある程度のお金が必要であったが、それも極力、余り物や捨てられる物を利用することで最小限にしたようだ。
 住む場所は不用になったというトレーラーハウスを無料で入手、広大な有機農場で週3日ボランティアで働くことでその一角にハウス置き場や耕作地その他を確保、排泄はコンポストトイレ、電気は200ポンドで入手したソーラーパネルによる太陽光発電(主にパソコン用)や手回し式懐中電灯、食べ物(著者はビーガン = 卵や乳製品も摂らない徹底した菜食主義者)は自分で栽培する野菜の他、野生植物や期限切れになって廃棄された食品、酒は自作、調理と暖房は手製のストーブに倒木など由来の薪、交通手段は主に自転車で長距離はヒッチハイク(著者のルールでは自分のためにガソリンを使うわけではないのでOK)などなど。昼間でも氷点下の日が続くというイギリス・ブリストル郊外(ロンドンの西170キロ)では冬の生活が最も大変だったようだが、当初の予定通り1年間のカネなし生活を行った上に、仲間とともに大規模なフリーエコノミー・パーティーやフェスティバル(どちらも完全無料)を主催した。著者が行なったことは一般人から見れば大変なことで、健康的な若者であることに加え、それまでに有していたフリーエコノミーの人脈や様々なスキルがあったからこそ成功したのだろうが、おおもとは自分が正しいと考えるとおりに行動しようとする、その意志の強さにあるのだろう。
 本書には一言も書かれてなかったが、これはアナーキズムの本であり、経済の見方は私が今年2月に読んだ「お金のむこうに人がいる」と同じ視点と思った。著者の理想は完全な贈与経済であり、ヒトが見返りを期待せずに必要に応じて無償で与え合えばお金は不要になる、というものだ。以前に何かで読んだ映画「ペイ・フォワード」にも言及している。また環境保護の考えも徹底していて、地球上の全ての生物(微生物も含む)と共存することを目指しているようだ。冬の間、保存してある食料を食べにくるネズミを殺すことは、「たかが窃盗の罪で死刑に処するのが正当だとも思えなかった」という。
 著者は自分がすべきことを頭で考え、それをそのまま行動に移す。そういう合理性は私も意識しているが、彼の徹底ぶりには驚く。とは言え地に足がついていて、上にも書いたように「頭でっかち」とは感じない。行動してみて初めてわかることも多いだろう。インターネットの普及も著者の活動の重要な要素となっていると思った。自分で実践したいとは全く思わないが、知識としては興味深かった。

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