プリズン・サークル2022年09月16日

坂上 香 <岩波書店・2022.3.24>

 ブレイディみかこの本で同名のドキュメンタリー映画(2020年1月公開)の存在を知ってから、ずっと見たいと思っていたが、なかなか機会がなく、監督が書いたという本書が出版されたのでこちらから先に読んでみた。映画の方は日本の刑務所の中での撮影ということで極めて制約が多かったため、映像として残せなかった出来事や撮影終了後の話などがあり、充分に読み応えのある本になっていた。とは言えやはり映像がないと主人公の訓練生(受刑者)4人のイメージがつかみにくく、どうしても隔靴掻痒の感があって、結局は映画を見てから再度読むことになりそうだ。
 著者は以前にアメリカの刑務所や社会復帰施設における更生プログラムの映画「ライファーズ(Lifers, 終身刑もしくは無期刑受刑者のこと)」(2004年公開)を作ったことがあり、犯罪者の更生に関心のある人には有名だったようだが、私は全く知らなかった。ブレイディみかこの紹介で知ったあと、「言葉を失ったあとで」の信田と上間の対談でも触れられ、さらに現在、坂上自身が毎日新聞にアメリカの受刑者に関する連載を書いているので、益々、興味をそそられた。
 映画「プリズン・サークル」は、日本にできた4つのPFI(Private Finance Initiative)刑務所の一つ「島根あさひ社会復帰促進センター」で行われているTC(Therapeutic Community = 回復共同体)ユニットを取材した映画である。TCはアメリカの一部で行われている更生プログラムで、受刑者の人権を尊重して対話を重視し、再犯防止とともに出所後の生活回復に有効とされているという。ちなみに「サークル」は、この会話が椅子を丸く並べる円座を表し、本書の表紙にも描かれている。著者曰く、TCが日本で実現するとは信じられない(日本の刑務所は世界でもかなり遅れているので)ことだったそうだが、「島根あさひ」では受刑者(このセンターでは訓練生と呼ばれる)や支援者(専門家である民間の職員)を含んだコミュニティが確かに存在し、信頼関係を伴った会話が成立している。職員が訓練生をさん付けで呼びかけることに、著者は大変驚いている。さらに出所後も、これも通常の刑務所では考えられないことだそうだが、一部の元受刑者は支援者たちを含めた「コミュニティ」を保ち、そこには元受刑者の家族も参加したとの話がエピローグに出てくる。さらには出所者と地域住民との交流まで行われたそうだ。どれほどの割合かわからないが、TCユニットは少なくとも一部の元受刑者のその後の人生に大きな影響を与えている。本書では、映画で主人公として取り上げた4人を中心に、その他数人の訓練生の変化(回復)が記されている。TCは日本全体の受刑者、約4万人のうちのたった40人、0.1% が参加しただけではあるが、第一歩としては素晴らしい試みに思えた。。
 犯罪者の結構な割合の人が幼少期からの虐待やDVなどの被害者であることは、多くの本やメディアが伝えるところであり、犯罪を全て自己責任として本人に押し付けるのは、あまりに不公平であるように思う。また社会にとっても、少しでも多くの出所者が社会の一員として活躍する方が、日陰者として一生を終えるより好ましいはずだ。この映画の撮影後、TCユニットは停滞(後退?)しているようであるが、何とか続けて欲しいと思う。早く映画を見てみたい。