自分で始めた人たち 社会を変える新しい民主主義2022年04月28日

 宇野重規 <大和書房・2022.3.1>

 日本学術会議会員の任命を拒否された1人である著者の対談本。著者は、自治体と市民が協働して地域の課題を解決するアイディアを競う「チャレンジ!!オープンガバナンス、COG」という企画に立ち上げから関わってきたが、COGの入賞者や審査員との7回の対談や鼎談をまとめた。登場人物のほとんどが女性で、諸事情によりアイディアだけで止まってしまった応募もあるようだが、実際に課題解決のために活発に動き続けている人もいる。著者の本は初めて読んだが、加藤陽子と合わせて、日本政府が何を嫌って拒否したかがわかる気がした。
 7つの話のうち、最も印象的だったのが、里親支援活動の齋藤さんの話。自身が実際に里親を経験し、さらに同期の里親仲間が「杉並区里子虐待死事件」を起こしたことから、COG応募の前から支援活動を始めていて、行政(東京都中野区)や児童相談所とともに里親制度の推進・発展に努めている。彼女には「子どもは親の所有物ではない」という考えが基本にあり、当事者である子どもの立場に立って考え、子どもの意見を重視する。一方、行政や児童相談所に対しても、批判するだけでなく、しばしばメディアからバッシングを受ける児童相談所のポジティブキャンペーンを行うなどして、ともに里親と里子を支えることを貫く。賞の対象となったのは、里親を子育て支援の一環と捉え、支援者がファミリーサポート、ショートステイ、里親へとステップアップしていく仕組みつくりのアイディアで、その後も「中野の子どもは中野のみんなで育てよう」という活動を続けている。
 会話なので読みやすい。地域活動を通して行政とも少し関わり始めた私にとって興味深く、参考になったこともある。ただ、対談や鼎談のときだけでなく、全てにおいて登場人物を褒めまくることに若干の違和感を感じたが、それぞれの立場を考えると致し方ないか。